中西 學​ トークショー

「2010 - 2020展」

​A decade of the recent works

by NAKANISHI, Manabu

2021年1月16日
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現代美術作家の中西學です。 本日はこのコロナ渦の中、大勢集まっていただきまして本当にありがとうございます。 大学を卒業して23、4歳ぐらいかから関西を中心に個展、グループ展を活発に行い、後に神戸の美術館(アートナウ)の招待作家となり、80年代。20代の、まさに青春時代を過ごしていて、 自分なりに成果が出たかなという時代ですけど、かれこれ今から30年以上になりますので、 正直ところどころ忘れていっているのですけど、 僕のことを知らない方にダイジェストのような印刷物がございますので、手にとって回してみてください。

創作活動をしていると、あまり僕は昔のことを振り返ることは殆どないのですね。というのが、今やっていること、この先どうなるのか、どういう世界観、どういう風景が見られるのかが中心であって、20代、30代を振り返るような事は殆どありません。

大阪の中之島にあります「国立国際美術館」というところで、80年代のアーティストの展覧会が企画されたんですけども、当時「ニューウェーブ」「関西・ニューウェーブ」とか「西高東低のアートシーン」とかいう風に言われていたのですけども、その時代のアーティストが一同に国立国際美術館で「ニューウェーブ展(2018)」という事で、そういう展覧会が開催されたのですね。その時に、30年ぶりに当時の作品を展示したのですが、自分で30年前の作品を見た時に、これ本当に自分が作ったのかな?と感じまして、やっぱり若い時にしかできないパッションであったり、色彩の使い方など随所にありまして、今だったらこういう感じではないなと、昔の自分の作品と対峙してすごく距離感を感じたことが、2年前にありました。

なので、先ほど言いましたように「今から」「これから」っていう方に興味があります。

それで今回なんですが、大正時代の建築とお聞きしていますが通常のギャラリー、美術館とは全然趣きが違いますよね。

そういった特異なスペースで展覧会をするということで、やっぱり空間を意識しました。

初めて下見に来た時に、ふっと、ここでできるプロジェクトは何かなということで、今までやった事無いことをやってみたいなと思いました。

じゃ、何か、ということで、80年代の作品を展示するとかではなく、ここ10年のディケイド(decade)、10年一単位という意味なんですけど。

いろんな部屋があります、空間に個性があります。

入り口の木造の本館、金庫のあるショーケース、メインとなるレンガの部屋、奥のホワイトキューブと、

中庭を入れて、6箇所に展示する場所があって、普段と違う展示をするということで、ここ10年を限定してディケイド、ダイジェストのような形の展覧会を計画してみました。

それに2010年から2020年、数字の並びもいいかなと、バッチリだと思いました。

あと英文タイトルの「DECADE」って言葉も使いたかったですし、この英訳は大阪の画廊の天野さん正式に訳して頂きました、有難うございました。

それで、僕の構想通りの展示ができました。

実際に先週展示をしていて、これらの作品がここの空間と融合した時に、僕の思っていた以上の相乗効果が出てて、どの部屋もそれぞれの作品と空間が溶け込んだかなと、そういう風に思っています。

特にこのレンガスペース、2010年くらいから制作したもので、久しぶりに展示をしてみたら中々良かったと思っていまして、どの部屋も構想以上の結果になりました。

この空間、今の現代の僕の持っている空気感と、この大正時代の培った空気感がうまくはまったような気がしています。

緊急事態宣言ということもありまして、トークショー自体、時短ということになりまして、資料を基に手短に作品の解説をしていきたいと思います。

まず最初の方(本館ギャラリー)に、「Vortex」というシリーズがあります。

ここ10年は現象をテーマとしていまして、「渦」「光、光源」とか「融解する」「溶食する」とか、そういう現象というものにすごく興味を持っています。

突然思いついた訳ではなくて、ずっと制作を継続していると徐々に自分の引き出しと言いますか、内面というものが出てくるのですね。

僕としてはずっと作り続けてる訳ですから、殆ど365日制作している状態、あるいは作品について考えている、試作している訳ですから、その継続している中で、変化っていうものは当然生じます。

中にはあまり変化しない作家さんもいますけど、僕はそれこそが、今の時代を生きているのだなと思っております。

だから今から10年フィードバックしていくと、その時その時の空気感を表現しています。

で、まず「Vortex」については、この「Luminous Flux」っていう作品ありきなんですね。

ここに展示している作品(Luminous Flux)があった上で、いろんなシリーズにつながっていくんですね。

こちらはカラフル(Luminous Flux)で、本館はモノクロの世界(Vortex)ですが、自分としては違和感なくスッと入っていけるんですね。

それは何故かというと、「Vortex」は、黒い背景の地に対して、白い形態の図がありますように、空間を創出させるという目的があります。

シンプルな画面、シンプルな構成なんですけども、空間を創出させるというのが一つの狙いであります。

それで、左の手前の方(レンガギャラリー1)にキャンヴァスに転写したものがあります。

要するに、この最初のシリーズから二極化していったんですね。そういうことってあまりないんでけども。

このシリーズ「Luminus Flux」をかれこれ、94、5点制作しまして、そうすると面白くて、中々次のステップにつながらない時っていうのは延々と繰り返していくのですね、そうしていると次の入り口がふっと現れることがあって。

その次の入り口となったものが「Vortex」とそちらの「Cosmic Pulse」の枝分かれとなって、それらは並行して制作していきました。

それで「Vortex」の技法の中に、日本の伝統的な染色技法の「墨流し」というのがあるんですけど、"(その)原理"を使ってるのですね。

水の動きであるとか、風の作用、そういうものを取り入れた作品なのですね。

 

それで次の*金庫ギャラリーですけど、ここのショーケースのようなところに、ガラスの作品の様々な形態の小ぶりの作品ですが、初めてここに訪れた時に、ここはガラスのシリーズだということで決めました。

ガラスのシリーズは、今から20年ほど前にカナダのホワイトホースという町に、実際にオーロラ観測に行った訳ですね。

その時は作品制作を目的としたものではなくて、単にオーロラ(を)が見てみたいって理由だけで行ってみたのですね。

それで初日に見たオーロラ、夜中の1時くらい、湖の凍ったところで観測したのですが、山の稜線から緑っぽい白い光が上がってきてくるくるっと緩く回転して、それからパンって弾けて、カーテンのように湖の上に拡がっていって、初日からすごいものが見れたとオーロラってこういう風に発生するんだと思ったんですね。

ところが次の日からは、普通にふっと揺れていたのしか見られなかったのですね。それで後に天文学の専門家の方に聞いてみたら、それは「オーロラバースト」と言ってすごく珍しいものですよ、と言われまして、特別な現象の一つだということでした。

オーロラというのは、北極圏と南極圏でしかみられないですよね、それには理由があって太陽風が地球に強く吹いてきた時にオーロラが活発になるという事を、みなさん聞いたことがあると思いますが

太陽風が活発になると、地球の大気が太陽風を入れないようにプロテクトしようと働くそうで、でもプロテクトしきれない、北エリアや南エリアにエアポケットができるんですって、

そこに太陽風が入ってくる、それがオーロラになるらしいのですよね。

それからオーロラの専門家の人に教えてもらったのですけど、色っていうのは大体、緑と黄緑、赤紫が主流だそうです。

僕が当時撮影したものも展示しいるのですが、緑に反応しているところは、空気中の酸素濃度が多い、赤紫のところは低い、というところで色が変化する。

稀にレッドオーロラっていうのがあるそうですが、あれは特異な現象だそうです、酸素濃度が極めて低いんのではないかなと僕は推測するのですけどね。

それで、実際オーロラの撮影にチャレンジしたのですが、当時は35mmのフィルム、シャッタースピードも絞りもわからないですし、何枚か撮った中でそこそこ写ったやつをプリントして自宅に飾っていました。

かなりフィルムを使いましたけど、なんとなくオーロラが撮れたものはほんの数枚でした。

オーロラは神秘的で美しいですが、別の側面もありまして、緯度の高いところでしかオーロラは発生しませんよね。

オーロラが活発になると電波障害も起こすそうなのですね。

例えば列車の信号機に誤作動を起こす、磁気嵐のようなものが起きてロッキー山脈の方で歴史的な列車の事故があったこともあるそうです。

みなさんガラスというと、竿に息を吹き込む吹きガラスを想像すると思いますが、ガラスの作品ではソリッドグラスという技法を使っています。

ソリッドグラスは記憶のオーロラを表現するのにぴったりだと思っています。

まずプラスチックのマケット・、模型をたくさん作って、専門家の方と打ち合わせをするんですね。

でもこの模型の通りに行くわけはなくて、ただ共同作業なので僕のやろうとしている事を伝えて、色ガラスを選んで共同作業を行っていきます。

また本番になると、その日の気持ちが変わるのですよね。

ですから模型も全く意識しないこともあって、結果的にできたものが全然違うものができても全く問題ないんですね。その時の気持ちの問題です。

プロの方との呼吸が大事ですよね。

​■ソリッドグラスワークの動画

次のレンガギャラリー1にあります、ここで「墨流し」を引用している「Cosmic Pulse」という2015年から制作した作品ですけど、

どういう部分で引用しているのか、天文学の専門誌にこのような図が出ていたんですね。

天文学で動画を撮影できる宇宙望遠鏡とかで、撮影できるマックスを表したグラフなのですね。 

この「宇宙背景放射」ってところが、ここが宇宙望遠鏡で撮影できる限界なんですね。

それで宇宙の始まりとかを天文学者は研究しているのですけども。

その動画を元に、今度は物理学に変わるのですね。

物理学で宇宙から届く光を分析する、両方で宇宙の始まりや謎を研究している、なかなか答えはでませんが。

それらが「Cosmic Pulse」の考えにつながった訳ですね、「Cosmic Pulse」は、時空の波動と訳しています。

その作品には「墨流し」を応用しています。

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福井県の越前市に、越前墨流しというものがございまして、何年か前から調査していまして、福田さんという方に協力頂いて、学術論文とかも発表したのですけど。

同心円になるこのパターン、ヨーロッパのマーブル紙もやっぱり起源は中国発なのですね。

東に渡って日本の墨流しになり、西に渡りヨーロッパのマーブル紙になったと記録されているんですね。

墨流しは江戸時代後期から使われている染色技法なのですけども、主に和紙に転写するものなのですね。

初期模様では同心円にずっと広がっていきます、このブランク(透明の空白)の部分、線と線が絶対に混ざらない、ここが油性なのですね。

これで広げていくのですが、左手で筆を3本持たれているのですね、それを交互に繰り返しています。

やってみたのですけど、まずできません、今94歳くらいですがで現役で実演されています。

よく江戸時代にこういうものがあったなと、中に染色同士が混ざらないところは、松脂を使っているそうです。

左手の筆の3色は、伝統的な江戸時代からの三色(朱・藍・墨)を使われています。

そして、それをベースに息を吹きかけるんですね、波の水面のように模様が変化していきます。

その後扇子で仰ぎます、かなり揺れて最初の同心円が変化していきます。

この状態が墨流しの生成模様となります。

これが江戸時代後期からの典型的な墨流しの染色方法で、これは真水なのでタイムリミットがあります。

長い間このままにしておくと、染料がどんどん沈んでいくので、短時間(10分程度)で染色をしないといけないんですね。

ここから和紙に染色していくのですがデリケートな作業で、受け止める側の和紙が特に大切になってくるのです。

ご自身でも和紙を製法されていますが、それは非公開です。

このような墨流しの手法あるいは原理を自分の作品に落とし込めないかと応用してみるのですが、キャンヴァスに写しとっていくのですが
当然染料も支持体も違いますが、水に強い写真用の原紙を使うことで、墨流しの技法を独自に再現する事ができました。

 

外の、中庭のものは「Yellow Knife」ですが
こちらもオーロラのシルエットをモチーフに、FRPというガラス繊維強化プラスチックを使ったものなのですが、今回屋外使用(portバージョン)ということで作品表面に車のボディーに使う塗装を施しました。

 

ホワイトギャラリーの方は、昨年、大阪の天野画廊で個展を開催した際のを再現しています。数点追加していますが、現在、自分の中での最新作はそこのホワイトギャラリーにあたります。
絵に描いたものが飛び出して立体になるということは、割とそういう傾向があって、それがどこかで自分の方法論になって自分に定着していて、自然にそういうことを行っています。
だから立体物を今度は平面にフィードバックしたらどうなるかということで、ホワイトギャリーでの方で展示しました。偶然なのですがタイトルが「White Cave」、大阪の方では「溶食形態」というタイトルで発表したものです。
これは、立体を平面にフィードバックしたシリーズです。
実はこの作品は産みの苦しみを味わいまして、なかなか思うようにいかないのですね。
でも絶対に諦めないというのがありまして。
どうしたらできるかの模索、試行錯誤、楽しんでいるところもあるんですが。
それでトレーニングの軌跡も展示しています、「study」と書いていますが、音楽でいうと「etude」、練習、準備ですね。
これを数ヶ月やってみて、支持体は厚めのケント紙、ボール紙です。
実践したもののいろんなことができてしまうんですね。
メディウムの量などを変えることで画面の表情がどんどん変化していく、いくらでもできるの

です。
発表というプレッシャーもないのでいくらでもできて、いろんなサイズでも作ってみました。
それである時に、ちょっとこれはおかしいと気づきまして、去年の夏前くらい、裾野を広げたり、手数を増やすことが目的では無かったのだろうと疑いを持ち始めました。
ある時それをストップしまして、これが駆け出しの頃だと喜びに変わったと思いますが、ある程度のキャリアとなると疑いを持つことになりました。
それで、打ち止めてきちんと山を登ろう(目指している作品)とキャンヴァスに向かい(向き合い)ました。
自分に疑問を持つ、というのは若い時には思わなかったですが、そのように疑いを持ちながら制作したのが最新作になります。
同じようにキャンヴァスでやると、練習は紙、キャンヴァスは布なので(、)また勝手の違いがあって、また微妙な表現が生まれたりするんですけど、そこはあまり深入りせずに、キャンヴァスの世界を作り上げました。

大阪の展覧会では、このシリーズもなかなか好評を頂いて、「今回も面白いことをされてますね」とか褒めていただくんですけど、でも、どこかで例えば若い方とかに、もっとこうしたらとか、こんなのできるでとか、批判的な意見も聞いてみたいです。

いつの間にか、そういう立場になってしまったんだなと思ったりしています。

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